正しく噛む」ことによって、体や心が健康になることが最近の研究や報告で明らかになっています。

例えば、むし歯を治療してきちんと噛むことができるようになった子供の成績が向上し、運動能力が上がったり、きちんと噛むことでダイエットに成功し、血圧や血糖値が正常になった人がいたりします。歯を失った高齢者が入れ歯やインプラント等を入れてしっかり噛めるようになると、すっかり若返ったりすることは、歯科医療の現場ではよく知られています。

また脳梗塞で意欲を失った患者さんが歯科治療で噛めるようになると笑顔で会話をするまでに回復したというケースや、寝たきりの高齢者が入れ歯を装着し、しっかり噛むことによって起き上がれるまでに回復したというケースも珍しくありません。

このように、きちんと噛むことは子供からお年寄りまで誰にでもできる効果的な健康法であり、噛む機能を回復させることは健康への第一歩であると言えます。

●脳、中枢

脳は全身の中で最も酸素の消費量が多く、大量の酸素を必要とします。よく噛むことで、頬や顎の周りの筋肉が活発に動き、脳に行く血流が増えるため、噛めば噛むほど酸素が供給され、脳が活発化されます。

●認知症

よく噛むことは脳を活発化し、認知症を防ぐという報告が相次いでなされています。噛むという動作(=咀嚼)は複数の器官を複雑に動かして行うため、高度な脳の働きを必要とし、想像以上に脳を使う行為だからです。

たとえば、軟らかいものを噛むときは自然に噛む力を弱め、硬いものを噛むときは自然に強い力を加えて噛みます。また食べ物の中に細い髪の毛の1本や、ほんの小さな石粒が1つ紛れ込んでいても、脳は瞬時に違和感を覚え、それを教えてくれます。

これは脳が常に神経を研ぎ澄ませて噛む行為を行っているからです。また加齢とともに、脳の記憶をつかさどる海馬とよばれる部分の神経細胞が減って海馬が萎縮することで記憶力が低下し、極端に進行すると認知症を発症するといわれていますが、咀嚼によって脳の海馬とよばれる部分の神経細胞を増やしたり、その働きを活発にさせることができるということがわかってきています。

歯を失って噛めなくなった人は認知症のリスクが1.9倍に高まるという報告もあります。さらに、よく噛める人は寝たきりが少ないという報告もあり、咀嚼が全身の健康に大きな影響を与えているといえます。

●満腹感、ダイエット効果 

噛む回数の少ない早食いはメタボリックシンドロームの要因になるといわれています。よく噛むと、歯の歯周組織である歯根膜や、頬や顎の周りの筋肉からの刺激が脳の神経に伝わり、ヒスタミンという神経物質を出し、これが食欲を抑制したり満腹感をもたらします。

よく噛まないと脳への刺激が低下し、血糖の上昇が遅れるため、満腹中枢が働くのが遅くなり、なかなか満腹感が得られず食べ過ぎてしまいます。さらに肥満を招く上に、糖尿病の引き金にもなります。

メタボ対策には運動、食事が取りいれられていますが、よく噛むことで脳の満腹中枢を働かせて早食いや食べ過ぎを防ぎ肥満の誘発を防ぐことが不可欠なのです。よく噛むことで少ない食事で満腹感が得られ、ダイエット効果もあるといわれています。

●唾液分泌促進

よく噛んで食べると副交感神経が優位になり、唾液がたくさん分泌されます。唾液がたくさん分泌されると口の中が清潔に保たれ、口臭、虫歯、歯周病の予防につながります。

唾液には、体内に侵入した細菌の発育をいち早く抑制する物質や、細菌の増殖を抑える働きをしてくれる物質がたくさん含まれており、発がん物質の働きを抑える効能や、アンチエイジングに関与するホルモン等も含まれています。反対によく噛まないで丸飲みしてしまうと、唾液が少ししか分泌されず口の中が乾燥し、口から細菌やウィルスが侵入しやすくなり、風邪や感染症にかかりやすくなります。

よく噛んで唾液を分泌させることは、健康増進に大きな役割を担っているのです。